“ストロング本能”で戦う、青木真也が挑むONEライト級世界王者奪還への道
2019年3月31日に東京・両国国技館で開催されるONEチャンピオンシップ初の日本大会「ONE:A NEW ERA-新時代–」で、青木真也がONEライト級世界王者のエドゥアルド・フォラヤンとタイトルマッチを行なう。両者は既に2016年11月に対戦したことがあるが、その時は青木がTKO負けを喫し、タイトルを失っている。
青木真也への取材依頼が筆者に出され、早速連絡を取った。調べるともうすぐ著書の出版が予定されていた。まともな記者なら、数日後に発売される著書を読んでから取材したいと思うものだ。しかし、青木本人から翌日の朝、「できれば今から電話で取材を」という連絡が来た。対面取材は無理か、発売日以降にできないかと交渉しようかとも思ったが、直感が大事な場合もある。今の方が良いと感じたので、10分後には電話越しの取材を始めた。青木真也と会話をするのは初めてである。
青木は著書『ストロング本能 人生を後悔しない「自分だけのものさし」』の中で、試合ではフィニッシュの形を想定し、そこに持っていくまでをイメージして戦っていると綴っていた。それは記者とて同じである。彼が人生を本気で生きているのは知っている。全力の相手には全力で行かないと話にならない。
早速、「現在のコンディションはいかがですか?」と聞いてみた。青木からは早速「悪いと言うわけがないでしょう?」とカウンターパンチが飛んでくる。「なんでそんな意味ないこと聞くんですか?」と逆取材。青木真也は常に青木真也である。こだわりを持ち、ある意味で、常に純粋である。敢えて彼の質問に答えるならば、フィニッシュに持っていくための逆算では不可欠なプロセス…普通に答える選手なのか、予想外の答えを言うのか。結果的に、青木真也らしいコメントが冒頭から飛び出した。
そうは言いつつも、「仮にコンディションが悪くても万全まで持っていくのがプロ」と丁寧に答えるのも青木真也である。ファンはつまらない心配などしなくても良いようだ。
今度の対戦相手は一度敗れているフォラヤンだ。「怖さはありますか?」と聞くと「どんな相手でも怖いですよ」という答えが帰ってきた。筆者からすれば意外で、「仮に格下の選手と対戦するときもですか?」と聞くと、「それは素人の質問ですね」と青木は笑った。「そりゃ素人ですから。記者って、知ったかぶりをしたらオシマイなんですよ」と怒るかなと思いつつも本音を言い返してみる。しかし、青木は真剣に耳を傾けてくれた。
そして、「次のフォラヤン戦も怖いです。でも、それは相手がフォラヤンだからではありません。どんな相手でも一発が終わる場合がありますから怖いものです。そして、その恐怖は決して無くなることはありません。だから、その出処を探って解決の落とし所を見つけるのが肝心です」と話してくれた。青木真也はこだわりのある男である。しかし、傍若無人な男ではない。真剣に向き合えば、真剣に聞いて答える。他人の声でも、自分の内なる声でもそれは変わらない。技術だけではなく、精神も成熟の域に達した青木真也には、気負いも無ければ、慢心も無い。彼は、彼の試合への「持って行き方」を熟知している。
青木真也は格闘バカではなく、サバイバーだ。常に生き抜くために、自分の生き方を考え、そして、実際に生き残ってきた。
「もちろん、ベルトは獲りたい。でも、ベルトが全てではない。自分の生き方をファンに見せて、強く生きるという生き方を提案したい」青木真也という男の、現在のモチベーション。そして、情熱がそこにある。
かつては、自分のためだけに戦ってきたという青木真也だが、最近では、応援してくれる人のために頑張るという心境が芽生えてきたという。久しぶりの日本でのタイトルマッチ。両国国技館に詰めかけたファンの姿や歓声が、これまで海外で戦ってきた青木真也のエネルギーになることは間違いないだろう。