松嶋こよみは飢えている―。格闘技界の頂を見つめる若武者
横浜関内の天気は快晴。1月にしては暖かい日差しが降り注ぐなか、太陽とは無縁の地下にあるパンクラスイズム横浜には、プロ選手たちが集まり、熱いトレーニングを行なっていた。外部招集した講師が複雑な動きから繰り出される右ストレートをやってみせ、選手たちもそれに倣う。その動きは容易ではないらしく、悪戦苦闘する選手たちが多いなか、まるで講師による実演をそのままコピーしたようなパンチを繰り出す選手がいた。26歳の松嶋こよみである。
格闘一家の“英才教育”
初参戦のONEでフェザー級前王者のマラット·ガフロフに1R TKO勝利を収めた新進気鋭·松嶋こよみのルーツはどこから始まったのか。「格闘技が好きな両親の影響で、子どもの頃から試合を観続けてきました。どうしたら強くなれるのか、そればかり考えているような子どもでした」。両親の理解もあり、幼いころから様々な格闘技に触れ合うことができたという。「空手をやるなかで、相手を倒すには組み負けないことが大事だと考え、レスリングや柔道を始めました。あくまで総合格闘技で強くなるために、自分に必要なものは何かを考えた結果です」。中学生になると、部活ではレスリングを選択しつつも、地元のジムに通う日々が始まった。高校はレスリングの強豪校に進学した。
1度も勝つことができなかったライバル
順調なキャリアを積み重ねているように見える松嶋だが、実はコンプレックスを抱えてもいた。「学生時代、全国大会などで絶対に勝てない選手がいました。都合4回ほど公式戦で戦いましたが、1度も勝てなかった」。
「普段の練習で辛い時、試合で苦しい時、常に彼のことを思い出します。“ここで諦めたらまた前と同じで勝てないぞ”と、自分に言い聞かせています」。強さへの飽くなき欲求と、勝てなかったかつてのライバル。松嶋を突き動かす原動力はここにある。
満を持してプロの世界へ
「高校で地元を離れてレスリングの強豪校に行ったのも、修斗からパンクラスに主戦場を変えたのも、そしてONEからのオファーを受けたのも、全ては、より強い相手がいるからです。当然、フェザー級のベルトや世界最強の選手になることは目標にしていますが、それ以前に、俺は強くなりたい。子どもの頃から一貫して変わっていないことです」。と、松嶋の眼光は鋭い。
常に自分と向き合い、強くなることだけに全てを注いできた松嶋こよみ。彼は寄り道を一切せず、自分が狙うべき世界の頂のみを見据えている。