【10/13大会】「大人になったDJへ」デメトリアス・ジョンソンの一流格闘家への道程
DJことデメトリアス・ジョンソンは、おそらく最も偉大な格闘家の一人だろう。だが、彼がそう呼ばれるようになるまでの道程は長く険しいものだった。
二流の格闘家であれば、困難に直面したら諦めてしまっていただろう。だが、ジョンソンは逆境の時も、終始一貫して自らのスキルを磨き続け、ONEフライ級の試合を西洋の格闘技界最高レベルにまで引き上げる一端を担い、新記録と共に世界王者に輝いた。
ジョンソンは、東京・両国国技館で行われる「ONE: CENTURY 世紀」の第1部、「ONE: CENTURY PART I」で、世界グランプリ決勝でダニー・キンガットと対戦する。フライ級の新たな歴史が今まさに作られようとしている。
だが、ジョンソンもまた人間であり、辛い時期には自分を疑うこともあった。10月13日(日)、再度の両国国技館での戦いを前に、彼は昔の自分を思い出し、もしあの頃の自分に話をすることができたら何を言うかを考えた。偉大な王者への道を踏み外さずにいられるために、若き日の自分に伝えたいこととは?
親愛なるDJへ
覚えてほしいのは、この言葉だ。「Punch in, punch out(打って入り、打って出ろ)」。
打撃の「パンチ」の話じゃない。トレーニングを必死に頑張っているのはわかっている。自分が話しているのは、9時に出勤(Punch in)して5時に退勤(Punch out)する1日8時間労働のスケジュールのことだ。それを受け入れるんだ。
そうだ。受け入れるんだ。1日8時間働くことが君のスタンダードになり、そこから世界チャンピオンへの道が開かれるのだから。それが君にとっての現実だ。そのおかげで自分を見失わずにいられる。
アスリートとしての暮らしは楽じゃない。格闘技界で生きていくには困難がつきものだ。だから、1日8時間の他の仕事と同じように考える。出勤し、トレーニングをし、退勤し、シャワーを浴びる。また同じことを繰り返す。それで完璧だ。
母さんと55番のバスに乗ったことを覚えているだろうか。「レッドロブスター」と「スポーツオーソリティ」を通り過ぎて、新しいクリート靴を買うためだけに遠出をした。裕福な家庭ではなかったが、母さんは9時から5時まで必死で働いて家族を養い、格闘家になりたいという夢を支えてくれた。
母さんの仕事に対するクレイジーな生真面目さを、君は受け継いでいる。義父は軍人で、彼の家で彼のルールの下で暮らす羽目になったけれど、それは君を強くした。運動はいつだって得意だったはずだ。君はもう世界チャンピオンになる下準備ができている。
今はまだ、将来の全貌は見えないだろう。それでいい。ただ、覚えておいてほしい。今は1日8時間しっかり働くんだ。自分がそうしたいからじゃない、そうしないといけないからだ。夢を追いかけて仕事を辞めないでほしい。少なくとも、今はまだ。格闘技は夢じゃない。自分の能力と人格すべてを試される、身を削るような単調な日々の連続だ。
今、目の前のやるべきことに集中するんだ。きっと驚くことになる。毎日8時間働き続けることが、君が想像もしなかった場所へと連れて行ってくれるだろう。良い時も悪い時もある。悪い時は、自分を強く保つ必要がある。
「レッドロブスター」のシェフの仕事も、そう悪いものじゃない。信じてほしい。新鮮なズワイガニよりも素敵な出会いがすぐに訪れる。君はそこで恋に落ち、母さんと義父の厳しい教育方針が役に立つ日もそう遠くないだろう…きっとね。
リサイクル現場や建設現場での仕事は、辛いトレーニングや競争のストレスを発散させてくれる。
1日8時間の労働を続ければ、誰でも疲れてくる。君も同じだ。でも、心配する必要はない。AMC Pankrationで共にトレーニングする仲間たちが、「普通」の感覚を変えてくれる。君はそこで居場所を見つけるだろう。
みんな、クールな奴らだ。警官だったり、オフィスで働いていたり、普通の仕事を持って君と同じように9時から5時のスケジュールを毎日こなそうとしている。彼らとのトレーニングは、地に足をつけ集中力を養う助けとなる。人生は、プロの格闘技の試合に出てそこで勝利を収めることよりも、ずっと大きなものだ。それに、どちらにせよ、君はその両方ともたくさん経験することになる。
そのうち、皆が君を「マイティ・マウス」と呼ぶようになるだろう。スーパーヒーローのようなパフォーマンスのためか、「小柄だけれど大きなハートを持ったやつ」を指すありがちな言い回しか、実際のところはわからない。だが自分が思うには、顔の横から突き出ている目立った耳のせいかもしれない。
仕事を辞めてプロになるべきだとか、プロの格闘家だからこそ成功したんだと誰かがしつこく言ってきてうんざりした時には、耳を貸さないのが賢いやり方だ。君のことを本当に考えて助言をしてくれる人だけを周りに置いておくこと。彼らは、いつ動くべきかをちゃんとわかって教えてくれる。それまでは、道を逸れないように。
総合格闘技はタフな世界だ。世界チャンピオンであっても、そうでなくても。4、5試合も戦えば、疲れ切るのは時間の問題だ。だから、稼ぐために働き続けること。お金はいくらあっても困ることはないのだから。
君の大好きなテレビゲームと同じように、現実でも貯金(セーブ)を忘れないように。きちんとお金を貯め続けるんだ。できる限り、頻繁に。愛する家族を養い、将来に備えておくためだ。キャリアにおいてビジネス面もきちんと考えておくことは、君の人生で最も賢明な決断の一つとなるだろう。
みんな、チーズは大好きだ。特に「マイティ・マウス」はチーズが好物だ。貧しい環境で育ち、男ばかりに囲まれていると、金のかかる趣味を覚えるようになる。稼ぐようになれば、誘惑も増える。賞金は賢く使うように。
だいたい、男連中が大金をつぎ込む改造車より、中古のBMWの方がずっとあちこちに乗り回すのに便利だ。今日ここにあるものも、明日には消え去る。1日8時間働き続けてきたからこそ、見えることだ。自分のルーツを決して忘れるな。そして、自分の目標も覚えておくように。大切なのは、家族を養い、幸せにすることだけだ
記者会見で、自分は普段着のスニーカーなのに、試合で負かした相手がグッチのスニーカーを履いているのに出くわしたりするだろう。それでもかまうことはない。誰もが世界チャンピオンの靴を履いて歩けるわけじゃないのだから。
ああ、それから、これは言わなくてもわかると思うが、テレビゲームと同じで勝ち負けはつきものだ。どちらも人生の一部なんだ。ラッキーなことに、トレーニングに打ち込み、地に足をつけて何年も9時から5時の仕事を続けてきた経験は、君の人格を磨く助けとなった。勝利も敗北も、君の人間性を変えることはない。そこは曲げずにいてほしい。
ここまで読めば、自分はほとんどの人が望むよりも早く1日8時間働く生活からは抜け出せるのだと気がついただろう。おめでとう。だが、やるべきことはたくさんあって現状に甘んじている暇はない。9時から5時のスケジュールは変わらない。ただ、ひとつの仕事からプロの格闘家としてのそれに変わり、新しい仕事の方が君に向いていたというだけだ。
完全にプロの格闘家としてやっていくことになった時も、有頂天にはなるな。そのかわり、努力と規律、誠実さ、謙虚さによって評価されるようになり、有名になるだろう。アメリカでの試合は物語の第1章でしかない…。だが、その先をばらすのはやめておこう。
ただ、知っておいてほしい。夢は叶う。心躍る未来が待っている。だから、今は旅路を楽しんで、自分らしく歩み続けてほしい。
愛をこめて
DJ
東京・両国国技館 | 10月13日 (日) | 中継:ONEチャンピオンシップ公式アプリで生中継(無料)