アジアを代表する格闘技ジム、Evolve MMA
ヘンゾ・グレイシー(ブラジル)やハファエル・ドス・アンジョスなどのスーパースターが所属し、アジアを代表する総合格闘技ジムとしてスポーツメディアからの称賛を受ける「Evolve MMA」は、元々はシンガポールで最も古いモールの1つ「PoMo」に入居するテナントの1つに過ぎなかった。
だが2009年にオープンした時に既に、Evolveは当時の他のジムからは際立った存在だった。当時東南アジアは総合格闘技の黎明期で、近代的で最先端の施設はシンガポールには初めてのものだったからだ。
文化の融合
Evolveには格闘スポーツ発展の原動力になるというビジョンがあり、その夢を実現するための基礎を築き始めた。
本格的な格闘技をシンガポールにもたらすという哲学に支えられ、ジムには指導者として、さまざまな分野の世界チャンピオンが集まった。
世界中から採用されたインストラクターたちは、ブラジリアン柔術、ボクシング、レスリング、ムエタイなど、それぞれの分野トップのエキスパートだった。
優秀なコーチが集まり、Evolveはさまざまなスキルを持った世界チャンピオンの下で、他ではできないようなトレーニングを経験できるジムとして、格闘技のスターの卵を惹きつけた。
「Evolveの指導レベルは、他のアカデミーとは一線を画している。インストラクターは、クル・シティートートンやヘンゾ・グレイシーのようなレジェンドの教え子たちだ」とEvolveの副社長であるウェズリー・デ・スーザは話す。
「新しい可能性が広がった。本格的なムエタイを体験するためだけにタイに旅行する必要はない。ブラジリアン柔術の世界チャンピオンからグラップリング(組み技)を学び、米国のチャンピオンからレスリングを学ぶことができる」
Evolveはこの戦略によりすぐに、総合格闘技の才能あふれる選手が集まる世界最大級のジムになり、シンガポールで総合格闘技が浸透する一助になった。だが、アジアのさまざまな格闘技のスタイルを統合することは簡単なことではなかった。
「ウーシューのようにフィリピンに深く根付いている格闘技もあるし、タイに目を向ければ、ムエタイの長い伝統がある」と、デ・スーザは説明する。
「マレーシアのシラットやミャンマーのラウェイのように、どの国にも独特の格闘技がある。Evolveはこれら全てを1か所に集めようとした最初のジムだと思う」
試合での活躍
ジムには幅広い文化が集い、ONEチャンピオンシップを始め世界中の格闘技団体で戦う有名なアスリートたちからなる「Evolve ファイト・チーム」が結成された。
Evolve ファイト・チームには、地元シンガポールのアミール・カーン、日本の格闘技のレジェンド青木真也、ブラジリアン柔術オリンピック世界杯を制したアレックス・シウバ(ブラジル)、ムエタイ世界王者に何度も輝いたデェダムロン・ソー・アミュアイシルチョーク(タイ)、そしてアンジェラ・リー(シンガポール)とクリスチャン・リー(シンガポール)のONE世界王者姉弟がいる。
試合では、これらの選手全員が大活躍を見せた。
デェダムロンとシウバはどちらも、ONEストロー級世界タイトルを獲得し、青木はONEライト級世界王者に2度輝いた。
カーンはすぐに、地元が生んだ総合格闘技のヒーローとしての立場を確立し、ONE史上最多ノックアウトを積み上げた。現在ではこの最多記録を、クリスチャン・リーと共有している。
リー姉弟はセンセーショナルだった。アンジェラは5連勝を挙げて2016年5月に初代女子アトム級世界王者に就任。クリスチャンは 2019年に、ONEライト級世界タイトルを獲得した上、ONEライト級世界グランプリも制覇した。
ONEの人気が急上昇したことと、Evolve所属選手たちの前例のない活躍により、ジムは世界的に有名になった。
「ONEで圧倒的な存在を誇るアンジェラのような知名度の高い選手がいることで、メディアの注目が集まった」と、デ・スーザは語る。
「Evolveに海外から人が集まり始めた。クラスを受講しに、ノルウェーからシンガポールに来た男性もいる」
健全なイメージ
今ではシンガポールに4拠点を構えるまでに成長したEvloveは、長年にわたり経験豊富なインストラクターや将来有望な若手選手たちを増やし続けると共に、あらゆる層に対し格闘技の健全なイメージを広めていった。
同時に、ブラジリアン柔術がフィットネスとして爆発的な人気を博し、多くの東南アジア諸国で根付き始めていた。
「格闘技が戦いや護衛のためだけでなく、ダイエットにも役立ち、健康を維持する楽しい方法であることに、人々が気付いた」とデ・スーザは話す。
「年配の人や働いている人、さらには子ども連れた親もEvolveのドアを叩くようになった。健康維持や、いじめの克服など、理由はさまざまだ」
デ・スーザが先頭となってEvolveは、総合格闘技をより前向きに再定義しようとするPRキャンペーンを展開した。
「真の格闘技とは要するに、人間の精神に関することなのだということを世界に示そうとした、アジアでただ1つのジムだと思う。人々の中に自信を築く、ということだ」
欧米では往々にして、総合格闘技は暴力的で血を見るスポーツとして売り込まれており、Evolveが築こうとしたイメージはその反動として幅広く受け入れられた。
「世間の目にさらされながら、格闘技とは何かという考えを一掃した。そして『格闘技の力で偉大な人間になる』というEvolveのミッションは共感を呼んでいる」と、デ・スーザはジムのビジョンについて付け加える。
このミッションは、ジムのアスリートをさらなる高みに導くことを目的として、ファイト・チームのコーチやインストラクターにも浸透している。
「成し遂げた成功に甘んじるべきではない。良いことをしているなら、それは良いことを続けるためにここにいるというだけ」
「自分たちは常に、絶えず改善することを目指しており、ファイト・チームも同様の基準を維持している。だからこの使命を遂行するためには、インストラクターとヘッドコーチはベストでなければならない」
限界はない
Evolveを監督するのは常に、エドゥアルド・パンプローナや、ヒース・シムズら、コーチングのエリートだ。
両者は共に、輝かしい経歴を持っており、パンプローナは有名ジム「ブラック・ハウス」から、シムズは「チーム・クエスト」と米国の五輪レスリングチームからやってきた。
Evolveはさらに次のヘッドコーチとして2020年1月、元修斗ミドル級世界王者シアー・バハドゥルザダと契約。バハドゥルザダの指導の下でEvolveは、ONEの2020年の大会スケジュールが再開された時も、勝利の道を歩み続けるだろう。
2019年はEvolveにとって実りの多い年だった。2018年のトライアウトを経てEvolveに入門した、アレクシ・トイヴォネン(スウェーデン)、トロイ・ウォーゼン(米国)、ロシャン・マイナム(インド)、秋元皓貴、そして澤田龍人らがONEで勝利を挙げた。
さらに、Evolveのスーパースター、ノンオー・ガイヤーンハーダオ(タイ)はONEバンタム級ムエタイ世界タイトルをしっかりと防衛。チームメイトでタイの同胞サムエー・ガイヤーンハーダオは輝かしい肩書きに、ONEストロー級キックボクシング世界タイトルを加えた。
2020年もEvolveは好調なスタートを切った。
インドのレスリング旋風リトゥ・フォガットは快進撃を続け、ウォーゼンとエコ・ロニ・サプトラ(インドネシア)も勝ち星を積み上げ、サムエーはONEストロー級ムエタイでONE3つ目の世界タイトルという記録破りの偉業を達成した。
格闘技の全ての分野で成し遂げたEvolve勢の快挙は、デ・スーザと彼のチームが構築した強い絆と深い文化の賜物だ。
「ここの一員でいられてうれしい。うちの選手が戦って勝った時、それは個人的な勝利ではなく、Evolveファミリー全体の勝利なんだ」
「ファイターたちはEvolveに来る生徒たちのおかげで成り立っている。彼らのサポートのおかげで、トレーニングをして好きなことに打ち込める。それに、営業やメンバー管理のスタッフのおかげで生徒たちが入ってくる。そしてアジアでのプレゼンスを高めるためのPRチームがいる」
「つまり、うちのファイターが試合に出るということは、それら1人1人の仕事の結晶なんだ」
ONEも急成長を続けており、デ・スーザはEvolveに限界はないと信じている。
「自分たちは今、格闘スポーツを代表するブランドとして、アジアの総合格闘技の代名詞になったと言える」
「これはとても誇らしいことだ。自分たちの哲学や格闘技の真の価値の証しだからだ。自分たちのチームとONEチャンピオンシップのおかげで、このプラットフォームを通じてそのことを世界に見せることができる」
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