【10/13大会】手塚裕之、渡米…体育教師…そしてONE王者の夢へ
デビュー以来、その爆発的な攻撃力で日本マットで人気を博してきた手塚裕之が、「ONE:CENTURY 世紀」の夜の部、「ONE: CENTURY PART II」で世界のファンにお目見えする。
2015年にパンクラスデビューを飾った手塚は、いきなり試合時間10秒という秒殺勝利を連発すると、その後順調にランクアップを果たし、2019年6月にウェルター級暫定キング·オブ·パンクラシストに登り詰めた。
10月13日(日)の両国大会で、手塚は修斗世界ウェルター級チャンピオン、エルナニ·ペルペトゥオ(ブラジル)と対戦、史上最大の格闘技イベントで世界レベルの実力を証明すべく意気込んでいる。
手塚のこれまでの台頭は、情熱に突き動かされたアスリートが夢を実現させていく物語でもある。試合に先立ち、手塚は田舎での生活から、世界最大の格闘技団体でスーパースターの座をつかむまでの道のりを語ってくれた。
始まりは剣道
手塚は栃木県塩谷町の山村に育った。手塚には、子供の頃から両親に強く言い聞かされてきたことがある。
「次の3つのことを、自分は29歳になったいまでも守っている。それは、他人に迷惑をかけないこと、友達と仲良くすること、悪事に手を染めないことだ」と手塚は明かす。
手塚少年はずっと格闘技に夢中だった。父親と祖父が共に格闘技ファンで、大みそかにはテレビで華やかな格闘技イベントを見ていたからだ。手塚はアスリートに宿る闘魂に魅せられていった。
とはいえ近所で練習ができる場所といえば、剣道の道場しかなかった。手塚はそこに8歳の時に入門し、15歳まで剣道を続ける。手塚はそこで、格闘家になってからも役に立っているという忍耐や勤勉さ、テクニックの基礎をたたき込まれた。
その後手塚は、宇都宮尾田ジムに入門し、キックボクシングの練習も始める。自宅から1時間もかかる遠いジムだったが、そんなことはものともせず、手塚は電車でのジム通いを始めたのだった。
卒業後に渡米
高校を卒業した手塚は、東京の日本体育大学に進学、体育教師への道を目指しながら、キックボクシングジムのチームドラゴンジムに参加する。
しかし手塚は、打撃に加えてグラップリング(組み技)も学んで、総合格闘技のスキルをマスターしたいと考えていた。総合格闘技は当時、アメリカで人気が爆発していた。そこで手塚は、アメリカに飛んでスキルアップを図ることを切望するようになる。
とはいえ、彼にはアメリカに行くためのお金がない。インターネットで情報検索をしたところ、米国・ポートランド州に農業研修プログラムがあることが分かった。そこで大学を卒業した手塚は、渡米してRise Above MMAに入門したのだった。
手塚は当初、ライフスタイルの激変に戸惑った。言葉の壁も立ちはだかった。
「友達ができるまで、英語はできるようにはならなかった。文化も全然違っていた。でも自分で勉強し、友達と話し、少しずつ慣れていった」と手塚は言う。
「誰かと一緒に練習したりスパーリングをしていると、自然に仲良くなるんだ。そこが格闘技のすばらしいところだね」
「グラップリングは大好きになった。キックボクシングよりも、筋肉やパワーをうんと使えるからね」
こうして2年がたち、アマチュア戦で4戦を経験した手塚は、栃木に戻ると「ハイブリッドレスリング山田道場」に入門、現在も手塚のセコンドに付いているコーチの太田光一氏のもとでグラウンドの強化を図ることとした。
教師から転身
故郷に戻った手塚は、体育教師の教員免許を生かして、地元の中学校で教職を得た。しかし間もなく、やはり自分の情熱に従って生きていかない限り、幸福な人生を送ることなどできないことに気がつく。
「学校では生徒のために最善を尽くしていたけれど、何かが違うと感じていた」と手塚は明かしている。
「教師は生徒に、夢を追いかけなさいと勇気づけなければならない。でも、自分は総合格闘家になりたいという夢を実現しようとしていない。自分ができていないことを、生徒たちに教えられるものだろうか」
「そう思うに至って、自分はプロのアスリートになることを決心したんだ」
教員としての1年間の契約を満了した後、手塚は再びポートランドに舞い戻り、4か月間、Rose City Fight Clubでアンディ·ミンスカーコーチに師事、得意のボクシングスキルに磨きをかけた。
以来、ノックアウトは手塚の代名詞になっている。プロ戦績での勝利は、1試合を除いて、すべてフィニッシュ決着で飾っているのだ。
世界王者の夢
手塚にとって、ウェルター級暫定キング·オブ·パンクラシスト暫定王者決定戦で対戦することとなったタフなヘビーパンチャー、高木健太は、厳しい対戦相手だった。
両者は3年前にも拳を交えており、その際には高木が第2ラウンド序盤にテクニカルノックアウトを収めているのだ。手塚はそこから立ち直って4勝を飾り、暫定王座をかけた雪辱戦に臨んだのだ。
そして手塚は、渾身のパフォーマンスで、第1ラウンドでの一本勝ちを収め、王座を獲得したのである。
「試合前には不安だった。前回の試合で自分は鼻の骨を折られ、顔面をひどくカットしたからね」と手塚は認める。
「高木の打撃の恐ろしさは誰よりもよく知っている。計量の前日には、怖すぎて眠れないほどだった」
「試合が終わって、本当にホッとしている。前回の試合から3年、アスリートとしての自分の成長をみせることができてうれしく思う」
こうして手塚は、修斗vsパンクラス4対4王者対決マッチで、世界最大の格闘技団体でデビューするという、グレードアップしたチャンスをつかんだのだった。
手塚は今回、魅せる試合をして、そこからさらに世界中に名前が響き渡るための大きな目標に踏み出そうとしている。
「目標はONEのチャンピオンベルトを取ることだ」と手塚は言う。
「試合のたびに見ている人が興奮で身体が震えるような、そんなアスリートに自分はなりたいんだ」
東京・両国国技館 | 10月13日 (日) | 中継:ONEチャンピオンシップ公式アプリで生中継(無料)
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「ONE: CENTURY 世紀」は、さまざまな格闘技から28人の世界チャンピオンが参戦する、史上最大の世界選手権格闘技イベントだ。フルスケールの世界選手権格闘技イベント2大会が同日開催されるのも、史上初めてのことである。
複数の世界タイトル戦、世界グランプリチャンピオンシップ決勝戦3試合、そして世界チャンピオン同士の対決をふんだんに取りそろえ、ONEチャンピオンシップが東京の両国国技館で新地平を切り拓く。