【2/28大会】江藤公洋、職場の理解が支えた「格闘技ドリーム」
ライト級の江藤公洋は、プロの総合格闘家になる道のりは厳しいものになるだろうとわかっていた。
プロとしての生活には、ジムでの厳しいトレーニング、厳格な食事の管理に加え、家族や友人と過ごす時間を犠牲にすることも必要だ。さらに、多くの選手は、生活を支えるために、週に5日、9時5時の仕事のかたわら、トレーニングを続けることも。
成功は保証されていない。だが幸いなことに、コーチやチームメイト、仕事仲間の支えにより、江藤は夢を実現し、ONEチャンピオンシップ期待の新星となることができた。
2月28日(金)にシンガポールで開かれる「ONE:KING OF THE JUNGLE」で、江藤はアミール・カーン(シンガポール)と対戦する。江藤は与えられた活躍の場を生かし、次世代の格闘家に刺激を与えたいと願っている。
「自分は今、夢を実現しながら生きている。格闘技に憧れている人をもっと励ますことができる。格闘技で生計を立てるのは厳しいといわれるが、自分の夢を追うためにできることをやっていけば、関連する仕事の機会を増えてくる」
江藤の言葉は実体験に基づくものだ。
2012年に専修大学を卒業した後、世界レベルのグラップラーである江藤は、レスリングから離れ、社会人として働く毎日を送っていた。
厳しい練習をこなし大会に出場していた生活は過去のものとなり、新たなキャリアを歩み始めて2年が過ぎた。だが江藤は目標を見失っていることに気づき、何かが違うと思い始めた。
江藤は生きるために働いていた。だがもう一度レスリングをやってみたくなったのだ。
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江藤は会社の社長に相談し、トレーニングのために勤務時間を調整して週に1度、レスリングの練習のために仕事を早退する許可をもらった。
専修大学時代に全国大会で準優勝という実績を持つ江藤は、さらに上を目指したくなった。
練習場所を求めて大学時代の先輩である上迫博仁に尋ねたところ、東京・新宿にあり大沢ケンジ氏が運営するジム「和術慧舟會HEARTS」を紹介されたのだ。HEARTSは総合格闘技がメーンのジムだが、週に1度レスリングのセッションがあり、江藤はそこに参加するようになった。
大沢代表はレスリングのセッションで江藤の才能と身体能力に気づき、キックボクシングのクラスを試すよう勧めた。
江藤はどんどん打撃のスキルも身に着けた。そしてジムに入門して1か月ほど経った時、総合格闘技のアマチュアの試合への参加を打診された。レスリングでは試合の機会が限られていたため、江藤は試合勘を取り戻すためにもと思い参加。見事に勝利を収める。
その後、プロの総合格闘技の試合を控えていた上迫が、試合の3週間前に負傷するというアクシデントに見舞われる。
偶然にも同じ階級だった江藤は、代理での出場を打診された。
「(上迫)先輩と話をしたら、お前が出るなら出てほしいと言われた。先輩にそんな話をされたら出ないわけにはいかない」
「それでプロデビューをしたら勝ってしまった。最初はふわふわしながらプロになったという感じだ」
不動産代理店での仕事は続けていたが、江藤はプロの総合格闘家として活躍を始める。DEEPなどに参戦し、2017年末までに13勝3敗2分という戦歴を築いた。
2018年3月、江藤は「ONEウォーリアー・シリーズ(OWS、ONEの人材育成、発掘のための大会)」に参加する。世界中から選手が集まり、ONE本大会への出場契約を賭けて戦う大会だ。
江藤はデビュー戦でパク・デソン(韓国)と対戦。敗北を喫するが、江藤の心に火がつく。
「OWS 2」で井上雄策と、そして「OWS 3」でJD・ハードウィックと対戦し、共に第2ラウンドでの肩固めで勝利を挙げ、良い形で2018年を締めくくる。
そして2019年2月の「OWS 4」でのトレッスル・タンとの試合を前に、江藤は社長に呼ばれる。
「今しかできないことだから、頑張ってみろよと社長に言われた。次勝ったら上がれるかもしれないからと。そしてスポンサーの申し出を受けて、練習に専念できる環境を作ってもらった」
年齢的にも身体的なピーク向かって行く前に、自分の持てる力を全て出し尽くさなければならないと分かっていた。江藤はトレーニングに専念し、贅沢ではないながらも再び情熱を負いかける環境を作り上げることができた。
「裕福な暮らしをすると厳しいとは思うが、基本的に自分がやっていることは、練習とサプリメント、それに食事くらいだ」
「それに加えてある程度はファイトマネーも稼ぐことができる。格闘技ドリームがあるんだというところを、後輩や格闘技を目指す人に見せたい」
強い信念と決意により、江藤の志は身を結ぶ。2019年2月のタンとの対戦で、江藤はわずか50秒で肩固めによりサブミッション勝ち。ONE本大会への契約を掴んだのだ。
困難な道のりだったが、職場からの温かい支援も相まって、江藤はうまく道を切り開いてきた。
江藤は会社内で良好な関係を築くことで、サポートを受け、応援してもらうことができた。同じような状況で仕事とスポーツでのキャリアの両立を考えている人たちにも、周囲と積極的にコミュニケーションを図るよう勧める。
「自分がやりたいということだけではなく、理解を得るためにしっかりと周りとコミュニケーションをとったほうがいい」
「そうすることで応援してもらう環境が整いやすくなり、融通も聞きやすくなるかもしれない」
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