「格闘技に導かれた」エナッシ栄光への階段
8月16日にタイ・バンコクで開かれる「ONE: DREAMS OF GOLD」のメインカードで、ONEフライ級キックボクシング世界タイトルマッチに挑戦するイリアス・エナッシ。対戦相手の現世界王者は、ペッダム・ペッティンディーアカデミーだ。
エナッシは、この試合がONEチャンピオンシップデビュー戦だが、既にキックボクシングで6つの世界タイトルを獲得しており、王者を陥落させる可能性は十分にある。
ムエタイの母国で、タイ人の世界王者に挑むエナッシ。試合を目前に控え、ONEの取材にそのルーツを語った。
両親は「闘士」
エナッシは、オランダのユトレヒトで、モロッコ移民の両親の間に生まれた。両親は子どもたちのために、生活を安定させようと必死に働いた。
「両親は、最初オランダに溶け込めなかった」
「移民として、権利ために戦う必要があった。特に父親は、オランダ社会に認めてもらうため、文字通り戦わなければならなかったんだ」
「ルーツはモロッコだけど、生まれも育ちもオランダ。だから、オランダが故郷だと思っている」
父はごみ収集の仕事をし、母は当初は育児に専念していたが、のちに介護施設で働き始めた。子どもたちは、働き者の両親を見て育った。
「きょうだいと一緒に過ごした子ども時代は最高だった」
「家族は自分の全て、一番のモチベーションなんだ」
武道家の血筋
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(※父親への感謝の気持ちを投稿したエナッシのインスタグラム)
エナッシは、熱心な空手家だった父も叔父を通じて格闘技と出会った。
「父と叔父は空手を、従兄弟はキックボクシングをやっていた。闘うのが好きな家系なのかもしれない」
子どもの頃はサッカーに夢中だったエナッシだが、ジムの門を叩くまでに、そう時間はかからなかった。
「キックボクシングを始めたのは11歳の時。いとこが自分と同じ年のいい選手がいて、そいつには敵わないだろうと言ったんだ」
「子どもの頃から負けず嫌い。何かができないだろうと言われたら、絶対に見返したかった。従兄弟のジムに入門して、スパーリングをやりはじめた。トレーナーは素質があるって言ってくれて、2ヶ月後には試合をしていたよ」
最初の試合を経験し、エナッシ少年はさらにキックボクシングにのめり込んでいく。
そんな息子を父親は熱心に支えた。応援するだけではなく、練習相手まで買って出た。
「格闘技は、最高の気分にさせてくれる。度胸もついたし、試合やハードワークに対するリスペクトも学んだ。どんどん強くなる気がするんだ」
「一番尊敬する人は父。昔も今もトレーニングに付き合ってくれる。父がいるから、ここまでがんばれたのだと思う」
正しい方向へ
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充実の格闘技生活を送るエナッシだったが、16歳になると悪い方向への誘惑に駆られてしまう。
「キックボクシングより友だちと遊んでいる方が楽しい時期があって、ジムはサボるし、帰宅は遅いしっていう時期があった」
そんなエナッシを見かねた父親は、息子を想って最後通告を突きつけた。このまま、これまでの努力を棒に振るか、それともリングに戻るか。
「真剣に悩んだ。キックボクシングも好きだし、友だちと遊ぶのも楽しかった」
「格闘技は、自分を強くしてくれた。父の言葉もあって、結局目が覚めた。そのあとは100パーセント練習に集中したよ。そして、すべてが上手く行き始めたんだ」
「格闘技が人生を修正する力をくれた。敬意を払うことや成熟した考え、そして身近な幸せを見つけることを教えてくれた」
成功への階段
その後、エナッシはキックボクシングで成功を収めた。
プロ通算34勝3敗。オランダの国内大会や、日本、中国で世界タイトルを獲得。また、こうしたタイトルの実績だけではなく、アグレッシブでエキサイティングなファイトスタイルが高く評価された。
「ONEと契約したとき、これまでの努力が報われたと感じた」
「自力で開いた扉で、ようやく夢の舞台の切符を掴んだ」
しかし、王者ペッダムは難攻不落の相手だ。キックボクシングとムエタイの両方で、数々の勝利を挙げてきた。しかし、王者がどう闘おうと、エナッシは正面から立ち向かう。
「自分のモチベーションは、両親のために戦い続けることだ」
「妻、きょうだい、そして両親のために、これまでの練習や犠牲は無駄じゃなかったってことを証明したい」
「ハードワークを重ねて、相応の結果も出してきた。ずっと戦い続けるつもりだ」
バンコク | 8月16日 (金) | 19時半(日本時間) | 中継:ONEチャンピオンシップ公式アプリで生中継(無料)