【4/5大会】新城絋平と対戦、隻腕ムエタイ戦士のピーコックのこれまで

Jake Peacock posing at PK Saenchai Muaythaigym

4オンスのグローブをつけて世界最高峰のムエタイ戦士と戦うのは、かなりの勇気を要することだ。さらにそれも片手のみで、となるとどうなるのだろう? この質問の答えは、ジェイク・ピーコック(カナダ / 英国)に尋ねてみればわかるかもしれない。

ピーコックは30歳。カナダで行われた登竜門大会「Road To ONE」で優勝し、4月5日(金)の「ONE Friday Fights 58: Superbon vs. Grigorian II」で日本の新城絋平を相手にONEデビュー戦を迎えることになった。

この記事では、タイ・バンコクのルンピニー・スタジアムで行われる同大会を前に、ピーコックがこれまでたどってきた道のりを紹介する。

片手のみで生まれて

ピーコックは片手のみで生きていくことを学ばねばならなかった。母親の胎内で、はがれてひも状になった羊膜が巻き付き、前腕部の発育が妨げられたためだ。

それでも幼い頃から挑戦から逃げたことはなかった。こうした気性は元イングランド・プレミアリーグのサッカー選手の父親と強い心を持つ母親から受け継いだものだ。さらに両親からは健常者ではないという理由で何かをあきらめるべきではない、ということを教わったという。

ピーコックはONEチャンピオンシップにこう話している。

「両親にはたくさん支えてもらった。自分を導いてくれたけれど、それも自分自身で進むべき方向を見つけるように導いてくれたんだ」

「覚えている限りでは、バスケットボールをして、水泳の大会にも出て、サッカーもやった。空手をやったら、それ一筋になった。自分は他と違うとは思わない、というふうにずっと考えていた。こういう心構えは両親から授かったもので、何かをやりたければやってみる、というふうに考えるようになった」

いじめに空手で対抗

ピーコックにとって、片手で靴紐を結んだり、ボタンを留めたりすることはさほど問題ではなかった。

ただ、学校に通うようになるといじめに対処する方法を学ばねばならなかった。しかし、幸いにもピーコックは幼い頃から空手を学んでいた。そして空手を初めて教わったコーチから特別扱いをされなかったことも幸運だったと振り返っている。

「彼は、自分がスポーツをする際には限界なんてないということを教えてくれたし、一生懸命やれば何でもできるという信念を植え付けてくれた」

「あるとき、乱暴されたことがあった。更衣室で押さえつけられたんだ。それが生まれて初めて巻き込まれた喧嘩だった」

「喧嘩を吹っ掛けられて、自分の身体を使って自分を守らなければいけない状況に追い込まれて良かったと思う。今後はいじめを仕掛けてくるような奴はもう出てこない、とわかっていたからだ」

ムエタイとの出会い

空手を続けながらも格闘家として成長したいという思いが強まったピーコックは、ムエタイに出会う。

腕が半分しかないということは、一見ムエタイでは不利と思われるかもしれない。だが、ピーコックはリング上で多様な武器のみならず、その短い腕をアドバンテージとして駆使した。

ピーコックはこう説明している。

「自分の戦績を見てもらえばわかるが、12勝1敗で11度フィニッシュ勝ちとしている。フィニッシュ勝ちは全部違った方法で挙げている。左足や左手、右腕、右足を頭部やボディに見舞っている」

「ある試合の後、母は自分のことをムエタイ界のアーミーナイフだって言ったんだ。たくさん違う武器を持っているから、だそうだ」

こうした多様な武器を駆使して地方や国内のムエタイのタイトルを獲得し、2023年に「Road to ONE」に参加。トーナメントを勝ち抜き、「ONE Friday Fights 58」に参戦できることになった。

ピーコックはONEチャンピオンシップで戦うのは長年の夢で、チャトリ・シットヨートン会長兼CEOに直訴をしたこともあった、と明かしている。

ピーコックはこう話している。

「『Road To ONE』の話を聞いたときから、自分の運命は世界的舞台に立つことなんだとわかっていた。ONEチャンピオンシップがその世界的舞台だ。さらに面白いことに、4年前にチャトリに(インスタグラムで)メッセージを送ったことがあったんだ。ONEで戦わせてほしいって」

観客を楽しませるファイターに

ピーコックは現在、4月5日のデビュー戦に向けて準備を重ねている。そして偶然にも、4月は「四肢欠損および形成不全啓発月間(LLLDAM)」でもある。

この機会を活かし、ピーコックはONEで盛り上がるような試合をしたいとコメントしている。

「(四肢形成不全について)注目されるのは好きではない。悪目立ちをしないようにして、やるべきことをやって、すごいファイターとして認められたい。(ONE参戦は)人々に勇気やインスピレーションを与えるいい機会なんだ」

「自分は大舞台に立つために生まれてきた。最高の大会に出るために生まれてきた。自分は観客を楽しませるのが好きだ。すごいファイターはたくさんいるけれど、観客を楽しませることができるファイターはそうはいない。自分は戦えるうえに、観客を楽しませることができる。こういうことをONEではやってやるつもりだ」

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