【2/28大会】チア、航空宇宙工学…ジャネット・トッド異色の経歴
ジャネット・トッド(米国)は最初にムエタイの練習を始めた時、トッドはすぐに夢中になった。だが世界の舞台でブレークするまでには、何年にもわたる努力と犠牲が必要だった。
日系米国人のトッドにとってチャンスはごく限られていた。だが、献身的な努力によりONEスーパーシリーズ参戦を掴み、世界最高の称号を賭けて世界最強の相手に立ち向かうチャンスを手に入れた。
2月28日(金)にシンガポールで開かれる「ONE:KING OF THE JUNGLE」で、ONEアトム級キックボクシングの世界タイトルを賭けて、トッドは王者スタンプ・フェアテックス(タイ)に挑む。スタンプとの対戦は、2019年2月にONEアトム級ムエタイの初代王者の座を賭けて争い、敗れて以来の再戦。運命の試合を前にトッドのこれまでを振り返り、スタンプ戦への意気込みを紹介する。
キックよりも宙返り
トッドは米国・カリフォルニア州で生まれ育った。父親は壁画のアーティストで、母親は日本から米国に移住しヨガの教師として働いていた。
トッドは米国で育ったが第一言語は日本語だった。だが米国で育つ中で英語を習得した。
「小さい頃の自分のビデオを見ると、日本語訛りの英語を話していた」
「母は家にいて私たちに日本語を教えてくれた。ピアノの練習や体操などあちこちに連れて行った。妹の場合はサッカーだった」
トッドは天性のアスリートだったが、その頃は格闘技に興味はなかった。その代わり体操を習っていた。
だが10歳になる頃、体操にかなりの時間を取られていることに気が付いた。
「体操が生活に占める割合が少し多すぎた。周りと触れ合う時間が欲しかったから中学で体操を辞め、代わりにチアリーディングを始めた」
格闘技との出会い
トッドは高校を卒業してチアリーディングを辞め、大学での学業に専念した。
カリフォルニア州立工科大学サンルイスオビスポ校の、航空宇宙工学の5年間の修士課程に入ることができたのだ。
勉強第一だったが、それでもトッドは何か運動をしたいと思っていた。そして有酸素運動系のキックボクシングに出会い、大事な勉強に充てる時間を確保しつつ、体のキレも保つことができた。
トッドが大学4年生になった時、恋人の紹介でムエタイに出会い、すぐに格闘技に夢中になった。
「その時は彼はただの恋人だったが、今では夫。彼がムエタイのジムを紹介してくれたの」
「すぐに大好きになった。格闘技の経験がなかったから、新しい動きを覚えるのはとても楽しかった。どうやってキックするかを覚えるのは面白かった。始めた頃はたぶん、私のキックは本当にひどかったから」
「新しい動き方を学んで、きちんとできるようにするというのは、本当に楽しかった」
チャンスに恵まれず
トッドはムエタイの虜になった。
長い間練習に取り組み、ついに一緒にトレーニングをしていた友人のアマチュアの試合でセコンドにつく機会を得る。そこから自分自身のキャリアの芽が開いた。
「彼女の試合を見て、ジムでのハードワークが報われたのを見ることができた」
「彼女はきれいなヒザ蹴りでTKO勝ちした。それを見て『これが自分が本当にやりたかったことだ』って思った。彼女のおかげで自分でもやりたいと思うようになった」
そしてトッドはアマチュアの試合に申し込み、勝利を収めた。
だがその勝利の後、しばらくは試合から遠ざかった。ちょうど修士課程を修了し、新たなキャリアを歩み始めたからだ。トレーニングは積極的にやったが、ムエタイの試合に出たいという気持ちは当面は留め置かれた。
4年後、トッドはとうとう多忙な生活に区切りをつけ、大好きなムエタイに戻ってきた。今回はもう、後戻りすることはなかった。
トッドはできるだけ試合に出て忙しく過ごそうとしたが、すぐに最大の問題にぶつかった。ムエタイは米国では人気のあるスポーツではないため、定期的に試合に出る機会を見付けるのが難しかったのだ。
「他の国では毎週試合をしている人もいる。でもここではプロモーターに自分でチケットを売れと言われ、もし売れなければ大抵は試合に出られない」
「試合のイベントは月に1回で、運が良ければ月1で戦える。そうじゃなければ2、3か月に1回。ここでは他の国と比べ、機会がものすごく限られている」
世界タイトルへの挑戦
ムエタイのキャリアで次の一歩を踏み出すため、トッドは米国外での試合に出ることにし、世界中のトーナメントに参加した。
2017年だけでも14試合をこなし、何試合もノックアウト勝ちを収めた。国際アマチュアムエタイ連盟(IFMA)のパンアメリカン選手権で優勝したほか、IFMAの世界選手権で銅メダルを獲得した。
これによりトッドは、世界最大の格闘技団体ONEへの扉を開いた。そしてデビュー戦以来ONEで最も乗っている選手の一人として活躍を続けてきた。デビュー戦ではスタンプをあと少しという所まで追い詰め、その後は3連勝。2019年10月の「ONE:CENTURY 世紀」では衝撃的なヘッドキックKOを決めている。
この功績によりトッドは今大会、再び世界タイトルを賭けてスタンプを対戦する機会を手にした。今回こそはベルトを米国に持ち帰るつもりだ。
「自分がそのタイトルにふさわしいことを証明したい」
「世界最強になりたいといつも言ってきた。文字通り、チャンスは目の前にある。夢が叶うとはこのことだ」