名コーチが語る、ゲイリー・トノン躍進の理由
ゲイリー・トノン(米国)は地上最強のグラップラーの1人として数えられ、のちに総合格闘家に転向した。
ニューヨークのヘンゾ・グレーシーの道場でコーチを務めるジョン・ダナハーは、トノンのこのキャリアの転換を支えた。ダナハーは、理論的なアプローチで秀でた格闘家を輩出したブラジリアン柔術の名コーチとして知られている。
だが、ダナハーは、トノンの成功はトノン自身の考え方や態度によるものだという。
「ゲイリー(トノン)は現在、最も傑出したグラップラーとして世界中で知られている。ポジションへの恐れ知らずのアプローチと、サブミッションで、エキサイティングなスタイルでも有名だ」
「彼の試合運びは常にリスク絡みだ。どんな世界選手権の大会に出場するグラップラーよりも、リスクをとる。彼より強く、でかい階級が上の選手とも戦うが、サブミッションホールドではかなり高い成功率を誇っている」
トノンのキャリアの特徴は、この困難かと思える挑戦を受ける傾向であり、総合格闘技に転向した時も同様だった。
普段通りの状態に身を置くのは、トノンにとって容易なことだが、トノンはそんな変化のない状態を良しとはしない。そのため、ONEチャンピオンシップに参戦し、総合格闘技で栄光を達成するという目標を定めたのだった。
これまでのところ、ONEのケージ「ザ・サークル」でも、ジムでのトレーニングにおいても、トノンはあらゆる障害を乗り越えてきたように見える。
「(総合格闘技への転向は)あらゆる意味において大きなチャレンジだった」と、ダナハーは認める。
「最初の挑戦は、心理的なものだった。ゲイリーの場合はグラップリングだが、1つの格闘技で秀でているものが、総合格闘技を始める時に直面することがある。ある分野のエキスパートだったのに、新しい分野では全くの新人だということだ」
「心理的にはアスリートにとって対処が難しいことだ。だが、ほかの格闘技に取り組む際、ゲイリーは特筆すべき謙虚さを持っていた。ゲイリーはこうした新しい分野では自分は初心者だってことを完全に受け入れたんだ」
トノンは、一からのスタートを嬉しく思ったし、どんなことにも熱心に取り組んだ。
2018年3月の「ONE: IRON WILL」でのデビュー戦では、打撃を披露してファンを驚かせ、総合力の高いパフォーマンスを披露。リチャード・コーミナル(フィリピン)を第2ラウンドTKOで下した。
以来、トノンはONEで4勝を加え、全ての対戦相手をフィニッシュしてきた。
昨年5月の中原由貴戦での、ヒールフックによる鮮やかなサブミッション勝利では、グラップリングの力が今なお健在であることも示した。だが、2019年3月、東京・両国国技館であった「ONE: A NEW ERA 新時代」では、アンソニー・アンゲレン(インドネシア)を相手にTKO勝利を挙げた一戦こそがブレイクのきっかけとなった。
トノンは、レスリング技術を駆使して、試合をグラウンドに持ち込み、グラウンド・アンド・パウンドで勝利を挙げたのだった。
グラップリングのバックボーンと、学び続ける姿勢に加え、過去2年間はダナハーのおかげで、トノンは急速な成長を遂げた。
ダナハーは、複数の世界チャンピオンを育て上げた経験があり、トノンは、この教授法を現場で目にしてきた。
「総合格闘技には多くの特別な技術がある。金網側のレスリングなどだ。まだゲイリーは学ぶことがたくさんある」と、ダナハーは話す。
「ジョルジュ・サンピエールらの有名アスリートの仕事を通じて、多くの総合格闘家をコーチした経験があり、それはゲイリーにとって大きなアドバンテージだ」
「コーチの仕事や、有名アスリートとの仕事を通じて得たスキルは、ゲイリー自身の総合格闘技で役立つだろう」
トノンとコーチは、まだまだ向上の余地はあると思っている。
だが、トノンのこれまでの戦績は、5勝0敗。目標とするマーティン・ニューイェン(ベトナム/オーストラリア)が有するONEフェザー級世界タイトルへの挑戦へ、あと少しでたどり着けるかもしれない。