【6/8大会】いじめられっ子だった野杁正明がONEに参戦するまで
元K-1ワールドGP2階級王者の野杁正明は、6月8日(土)にタイ・バンコクで行われる「ONE 167」のフェザー級キックボクシングマッチで、シッティチャイ・シッソンピーノン(タイ)を相手にONEチャンピオンシップデビューを迎える。
だが、こうした現在の姿からは想像もつかないことだが、子供の頃にはいじめに苦しんだこともあったという。
野杁のこうした体験は、困難にぶつかったとしてもそれを乗り越え、高みに達することができるということの証拠でもある。
この記事では、試合を通じて世界中でいじめに苦しんでいる子供たちに勇気を与えたいと意気込む野杁のこれまでを紹介する。
小学校時代の思い出
野杁は名古屋市で3人兄弟の末っ子として生まれた。
ときには兄と喧嘩をすることもあったようだが、 両親と共に幸せな家庭生活を送った、とONEチャンピオンシップに話している。
「(2人の兄は)4つ上と6つ上。一番上の兄とは仲良かった。2番目の兄とはよく喧嘩していた」
一方、学校生活は順調ではなかったようだ。低学年の頃はいじめを受けていたと明かしている。
「小学2年生で、背の順で僕が1番後ろから2番目だった。1番後ろの子から、引っかかれていた。」
「校舎内の渡り廊下に連れて行かれて、殴られたこともあった。僕は何もしていなかったんだけど」
空手との出会い
幸運なことにその翌年、いじめっ子が転校していったことでいじめは治った。そして同時期に野杁は格闘技を始めることになった。
そのきっかけは、いじめを止めてくれた兄の友人の影響もあったようだ。
「小2の12月から始めた。いじめられているときに、止めに来てくれたのが、2番目の兄の友達だった。その子が空手をやっていた」
強くなりたいという思いから格闘技を始めた野杁。
当初は試合で負けて大泣きをしたこともあったそうだが、憧れの存在を見つけたことで格闘技への思いが強まっていったようだ。
「初めて空手に行ったときはワクワクした。単純に強くなりたかったから空手を始めた。2人の兄と父も一緒に始めた。始めて3ヶ月くらいで初めての試合に出た」
「父と1番上の兄はすぐに辞めた。その後、2番目の兄もやがて辞めた。みんな辞めていったけど、楽しかったし、僕にはこれしかなかったから続けてこれた」
「まったく素質があるとは思わなかった。最初のほうの試合では女の子と戦って一本で負けたこともあった。負けて大泣きしていた。けれども、憧れていた先輩が同じ道場にいて、彼に憧れていたので長くやってこれた」
キックボクシングの道へ
空手では全国大会や地区大会で優勝するなど活躍した。
だが、最終的には並行してトレーニングを始めたキックボクシングに転向することになった。
野杁は当時をこう振り返っている。
「本格的にキックボクシング一本にしたのは中2のとき。小6のときににキックを始めた。空手道場に元々キックをやっていた先生がきてくれて、キックボクシングは空手の延長線上でやっていた」
「中2からキックボクシングのアマチュア大会に出るようになった。当初は遊びに夢中で全然格闘技に集中していなかった。けれども、準決勝で負けたときに、やる気ないなら辞めろ! って言われたのが悔しくて、見返してやろうと思った」
喝を入れられて進路を定めた野杁は、懸命な努力を重ねた。
プロのキックボクサーとしてのキャリアを始めた際は、自立をするために格闘技を教えていたことも。
一方、大学にも通っていたが、東京への転居をきっかけに中退したと言う。
「ジムで空手の指導員をしていた。自分の練習がないときには、キックボクシングを一般会員に教えていた」
「名古屋のジムに行っていたが、色々な事情でそのジムを辞めて東京に行くことになった。大学には通えなくなったので大学2、3年のときに(大学を)辞めて東京に引っ越した 」
「試合を見て勇気を感じて」
強豪が集う東京の格闘技シーンに身を置くようになり、野杁の努力は本格的に報われ始めた。
そして2017年にはK-1ワールドGPスーパー・ライト級王者に。さらに2021年にはウェルター級王者に輝いた。
「そのウェルター級のベルトを取った時は、1日に3試合があり、3試合ともKO勝ちだったから思い入れはある」
そして世界中のキックボクシング界の強豪が集まるONEのフェザー級に参戦することに。
野杁は現在、チームメイトの武尊と共にトレーニングに励みながら、ONEフェザー級キックボクシング世界タイトルを狙おうとしている。だが、それは自分自身のためだけではない。
自身のいじめられた経験を振り返り、世界中の同じような立場にある子供たちに希望を与えたいという思いもあるのだ。
「僕もいじめられていたとき誰にも相談できなかった。言うのが恥ずかしくて自分1人で考えていた」
「世界中にそういう子たちはいると思う。僕の試合を見て勇気を感じてくれたら、と思って戦いたい」