「ほぼ自炊」江藤公洋の料理への情熱
グラップリング(組み技)のスペシャリスト、江藤公洋は、「ONEウォーリアー・シリーズ(OWS、ONEの人材育成、発掘のための大会)」での 3つのサブミッション勝ちに続き、ONEチャンピオンシップでの栄光を手にした。
一度はスーツとネクタイを着けサラリーマンとして働いた江藤は、今は格闘家としてのキャリアに専念。持ち味のレスリングで素早さや粘り強さを上げつつ、重い打撃を研ぎ澄ませている。また、 31歳の江藤はその裏で、料理に対して特別な情熱を持っている。
料理は江藤にとって単なる趣味ではない。多くの日本人アスリートは食事を、自宅で誰かに作ってもらったり、レストランで食べたり、テイクアウトしたりしている。だが江藤の場合、ほとんど完全に自炊なのだ。
江藤が料理を始めたのは小学5、6年生の頃だ。父親は調理師免許を持つシェフであり、両親は時々、江藤に料理の仕方を教えた。やがて江藤はお腹が空いている時は、自分で簡単な物を作るようになった。
「最初に作ったのはフレンチトーストや炒め物などだ。シンプルでおいしいものを作っていた記憶がある」と江藤は振り返る。
「肉が好きだったから肉が多めのものを作っていた。チャーハンやカレーなど、好きなものを作っていた」
成長してレスリングの名門大学で競技生活を送るようになると、江藤の料理のスキルは、選手として必要な栄養バランスを考える上での自信につながった。
現在、ONEと契約するアスリートとして江藤は、試合に臨むまでの準備の一環として、体への燃料補給はほぼ全て、自分で調理して賄っている。
「ほぼ自炊。試合前は自分でバランスを考えて作っている。減量中は主に、低脂質高たんぱくなものを中心に」
「減量食はさっぱりしすぎてしまうから、いろいろ考えて調理する。たとえば、鶏胸肉をなるべくパサパサせずしっとりした状態で食べられるよう、機材や調理方法を考える」
白米は玄米や押麦に代替。野菜はブロッコリーやほうれん草など、栄養価が高いもののほか、水溶性食物繊維が豊富な大根が、減量中にはお勧めだという。
新しい料理のアイデアについて、江藤は有名シェフをフォローしたり、レシピアプリを多用したりはしないと言う。それではどうやって新しい料理やテクニックを学ぶのだろうか?
「ネットで食べたいものをぱっと調べて作ることが多い。調味料のこれとこれで、こうなって…という想像がつくから、いろいろなメニューを見て、一番おいしいと思う分量や、隠し味を考えて試す」
「少し格闘技と似ている。自分の経験則で組み立てて、そこで自分のオリジナリティをつけていく」
江藤にとって料理の世界は、人生におけるチャレンジの1つであり、自分で作っておいしいものができた時に、何よりも料理の楽しさを感じる。料理のアイデアのヒントは、身近なところから得ている。
「外で食べておいしかったものや、テレビで見ておいしそうだと思ったものを再現して作ってみる。食べたいものを自分で手軽に作れるというのがすごく魅力」
「わざわざお店に行かなくても、食べたいものやテレビで見たものが作れる」
さらに江藤は、伝統的な和食を中心に、中華、洋食など幅広いジャンルの料理を手掛けてきた。ONEで世界クラスのアスリートとして活躍するまでに培った、好奇心と創造力の、もう1つのはけ口なのだ。
江藤にとって、格闘技の腕前と料理への野心は密接に関係している。研究室の科学者のように、自分が持っている知識と成分を実験し、問題を解決しようという姿勢で料理に取り組んでいる。
おそらく、最終的なテストは、チャトリ・シットヨートンONE会長兼CEOに料理を振る舞うことだろう。だが江藤はどんなものを用意するのだろうか?
「チャトリさんが好きな料理というものに、逆にチャレンジしたい。これを出すというより、調べて、自分なりにアレンジしたものを出してみたいと思う」
「自分が知らない料理かもしれないから、何度か自分で作って食べて見て、自分なりのテイストを加えたい。その方が面白いと思う」
最後に江藤が、これから料理を始めたいという人にアドバイスを送る。
「最初に、最も失敗しづらいカレーや、包丁を使わないフレンチトーストみたいなものから始めてみては」
「切ってある切り身をソテーするだけとか、煮るだけからチャレンジしてもいいのではと思う。少しずつ包丁に慣れてきたら温かい料理に移っていったらいいと思う」
基本から始めて着実に進歩するという考えは、江藤が総合格闘技で長年に渡り貫いてきたのとまさに同じ概念だ。
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