【10/13大会】サラリーマンになりたくなかった、松本光史の格闘技人生
修斗世界ライト級チャンピオンの松本光史は、サラリーマンとして人生を終えるなど、まっぴらごめんだと考えていた。
日本では多くの若者がサラリーマン人生へと押し流されていく。松本は、そんな人生は地獄だと考えていたのだ。
幸い、松本には若い頃から格闘技の才能があり、腕一本で自分の道を進むことができた。日本でライト級のトップファイターになった松本は、10月13日(日)、東京・両国国技館で開催される「ONE:CENTURY 世紀」の第2部で、ONEチャンピオンシップでのデビューを飾る。
ライト級キング・オブ・パンクラシストの久米鷹介戦に先立ち、松本はこの舞台にたどり着くまでに、どのように夢を追いかけてきたのかを話してくれた。
働き者の父を見て
松本は大阪府で育った。家族は両親と兄、家の周囲は田んぼばかりという環境だった。父親は働き者だったが、いつも仕事のストレスを抱えており。そのことで松本は会社とは怖いところだという思いを植え付けられた。
「母は主婦で、父はプラスティック製品の加工業で勤務していた。父はいつも働いていた。それを見て、自分も大きくなったら、こんなふうに四六時中、仕事をしないといけなくなるのかと思っていた」と松本は言う。
幸い、松本は子供の頃から得意だった柔道で、そんな恐怖を紛らわしていた。しかし、大好きな柔道でさえ、試合に出場するようになるとつらいものになっていった。
「とにかく身体を大きくしなさいと、山ほど食べさせられたのは本当にキツかった」と松本は振り返っている。
最初は師範の言うことについて行くだけでもやっとだった松本だが、努力がやがて実を結んでいく。松本は大学で、柔道世界選手権優勝者、寝技の権威である柏崎克彦氏に師事し、黒帯3段を取得するのだ。
プロ格闘家目指し
柔道は松本の総合格闘家のバックボーンになっている。松本は子供の頃から兄と一緒に日本の総合格闘技団体「RINGS」の試合を見て、出場選手のマネをするなど、総合格闘技に夢中になっていたのだ。
高校3年生の時に、サラリーマン生活が始まってしまう可能性に恐れていた松本は、地元の総合格闘技道場に入門、そこからプロ格闘家としてのキャリアを歩み始める。驚いたことに、両親は反対しなかった。
「本当のところ、どう思っていたのかは分からない。とにかく両親は最初から応援してくれていた」と松本は語っている。
プロになり立ての頃、松本は北米総合格闘技のメッカ、アメリカ・ラスベガスを訪れている。その時の経験は松本の将来に、忘れられない強い印象を残した。
「アメリカの総合格闘家がどんなものなのかを見てみたかった。それに、外国で1人で暮らしてみるという経験もしてみたかった」
「言葉が分からなくてもどうにかなること、強い選手が弱い選手に負けることもあるのだと言うことを学んだと思う」
ラスベガス滞在中に松本は自分のニックネームをルクソールとすることも決めている。宿泊先だったルクソール・ホテル&カジノ(Luxor Hotel & Casino)から取ったものだ。松本は練習を終えて自転車でホテルに戻る夜道で、大きなピラミッド型にそびえ立つこの名物ホテルを目指して帰ったのだった。
ゼロから打撃理論
松本のプロ格闘家生活は順調な滑り出しを見せた。デビューから12戦目までの戦績は8勝4敗、8勝のうち4勝が柔道を生かした関節技による一本勝ちだった。
しかし、打撃の穴を突かれて初めてフィニッシュ負けを喫したことで、大きなつまずきを覚えた松本は、ここから格闘技キャリアの見直しに迫られる。
「小知和晋との2戦目でフィニッシュされた時が、自分のキャリアで最も底を打った時期だった」と松本は振り返っている。「すごく練習したのに、全然身動きが取れなかった」
「ただ不思議に、もうやめてしまおうとは一瞬も思わなかった。ただ、やり方を変えないといけないと思い、打撃コーチを探すことにした。今でもそのコーチとは組んでいる」
「自分は打撃理論を入念に学んでいった。本当にゼロから、少しずつ積み上げた。やがて結果が出始めた」
こうした慎重なやり方は、松本のキャリアの特徴だ。修斗の世界チャンピオンになった今でも、同じようなやり方で練習を続けている。
「毎日少しずつ、新しいことを覚えていく。多すぎてもいけないし、少なすぎてもいけない。現状に甘んじることなく、常に研さんを積んでいくんだ」
「自分で自分のことを強いと思ったことはない。だからほんの少しの進歩でもとてもうれしいんだ。自分の周囲には、いまだに強くなっている年上の選手がまだまだいる。そのことが自分のモチベーションを高めてくれるんだ」
新たな高みへ進化
長年のハードな練習は成果を上げている。ここ数年の松本の勝利は、一本勝ちよりノックアウト勝ちの方が多いのだ。修斗世界ライト級王座を獲得した川名雄生戦では一本勝ちだったが、その後の2度の防衛戦ではいずれもノックアウト勝ちを収めている。
松本は、これまで自分がキャリアを築いてきた修斗を代表して、世界最大の格闘技団体で、パンクラスのライト級チャンピオンと戦うチャンスを楽しみにしている。
「歴史ある団体のライト級のトップと戦うことができることは光栄だ。修斗ファンに喜んでもらえるパフォーマンスをお目にかけたい」
戦歴30戦、キャリア10年超の松本はまだ、選手としての進化を止めるつもりはない。
格闘技の本拠地へとたどり着いた以上、松本はここから、これまでと同じ心持ちで、新たな高みを目指す。
「自分の目標はONE世界チャンピオンになることだ。そのためには、常に環境に対応し、進化し、冷静さを失わない態度で臨んでいきたい」
ーーーーーーー
「ONE: CENTURY 世紀」は、さまざまな格闘技から28人の世界チャンピオンが参戦する、史上最大の世界選手権格闘技イベントだ。フルスケールの世界選手権格闘技イベント2大会が同日開催されるのも、史上初めてのことである。
複数の世界タイトル戦、世界グランプリチャンピオンシップ決勝戦3試合、そして世界チャンピオン同士の対決をふんだんに取りそろえ、ONEチャンピオンシップが東京の両国国技館で新地平を切り拓く。