鋭い洞察、元格闘家のONE解説者ミッチ・チルソン
ミッチ・チルソンはONEチャンピオンシップの英語放送の解説者として、知られた顔だ。だが彼は専門的な分析を提供する能力を遥かに上回る、様々なスキルを持っている。
日系アメリカ人のチルソンは、生涯に渡り格闘家として歩んできた。そしてムエタイと総合格闘技の選手としてだけではなく、コーチング、業界をリードするパーソナルトレーナー、それに俳優としての顔を持つ。
チルソンは打撃から格闘技を始めたが、やがて憧れの選手に出会って人生の進路を変えることになる。
シンガポールに移って
チルソンは2005年、ムエタイ選手として活動するかたわら、パーソナルトレーナーとして働いていた。ある時、「シンガポールは『東洋のハワイ』」だと友人に言われ、興味をひかれたチルソンはシンガポールに移る。
当時、格闘技の試合はほとんど存在していなかった。ムエタイのトレーニングのために何キロも離れた場所に行かなければならず、ブラジリアン柔術の選手は2人しかいなかった。
だが2009年に「Evolve MMA」のジムがオープンした時、世界チャンピオンたちが次々にやってきた。チルソンもチームに参加して人生を変える機会を掴む。
「その時、俳優とモデルの仕事をやっていた。ジムも経営していたが、ちょうど会社の仕事を辞めたところだったから時間があった。『いいよ、やってみよう』って感じだった」
「自分はEvolveのチームの最初のメンバーだった」
オープンしたばかりのジムで、チルソンはあらゆるトレーニングに身を投じた。もともとの打撃のスキルに加え、ブラジリアン柔術とレスリングを習得し、総合格闘家になるための準備を整えた。
ONEチャンピオンシップが誕生する前に格闘技団体「Martial Combat」でデビューしたチルソンは、ONE初の大会「ONE:CHAMPION VS. CHAMPION」に出場するチャンスをもらう。
「私はチャトリ(シットヨートン、ONE会長兼CEO)のメッセージが本当に気に入ったんだ。ONEはアジアで生まれ、有名選手があまりいなかったから、自分にチャンスを与えてくれた」
「自分はEvolveのコーチの1人として、偉大な世界チャンピオンたちに囲まれていた。自分たちは午前中にトレーニングを行い、クラスを教えてから、再びトレーニングしていた。ONEでそれを披露する機会をもらえて、とてもうれしかった」
実況席での仕事
チルソンはONEで5試合を戦った。だがある大企業の6か国でのパーソナルトレーニングのディレクターとしての仕事に就き、選手としての生活を終えた。
その頃、チルソンはテレビの仕事で一杯で、フィットネスの知識を世界に伝えていた。だがONEからコメンテーターとしての仕事をオファーされたとき、彼は抵抗できなかった。
チルソンは以前にも実況席での仕事を経験したことがあった。その時は苦い経験をしていたものの、今回は強い決意を持って取り組むことに決めた。
「Martial Combatのチャンピオンだったとき、彼らはどうにかして自分を引き留めたいと思って、解説の仕事をくれたんだ。でも酷かった。いつもどもってしまって、どうすればいいかわからなかったよ」
「テレビ番組に出るようになったから、カメラの前で自信を持てるようになった。ONEでは一度、解説の仕事をもらってやったみたが、まだ思ったほどうまくはできなかった」
「選手について話したり、動きを分析したり、背景を話したりして、自分が本当に楽しんでいることに気づいた。だから練習を始めたんだ。数か月間、毎日練習し続けた。音を消して試合を見ながら解説したんだ」
「ONEからもう一度仕事をもらった。その時はもっと自信があったしずっとうまくできた。自分は適切なタイミングで適切な場所にいたんだね」
「マイケルとミッチ」
マイクに向かって話す時間が長ければ長くなるほど、チルソンはうまくなり、より多くの依頼を受けるようになった。ONEはチルソンにもっと多くの大会で、最終的には全大会で解説してほしいと望んだが、最初は簡単なことではなかった。
「自分はアジアではトップのパーソナルトレーナーだったし、テレビ番組にも出ていた。フィットネスに関する限りは夢のような仕事だった」
「大企業に勤めていて、給料も、車も、住む場所も提供してもらっていた。でも解説は本当に楽しかったんだ。大会の時はまるで子どもみたいに飛び回って興奮していた。選手として試合中に感じていたようなアドレナリンを感じた」
「 『ONEの大会を全部やりたい?』って聞かれた時は信じられなかった。どちらかを選ばなければいけなかった。自分がやりたかった、今後何十年と働けるような企業トップでの仕事か、それともこの一生に一度のチャンスか。今の自分のポジションが信じられないよ」
2017年にONEの放送チームにマイケル・スキャヴェロが加わった。数年が経った今、「マイケルとミッチ」の名コンビはONEに欠かせない存在となった。
チルソンは初め、スキャヴェロの隣に座ることを光栄に思っていた。そしてそこから3年、スキャヴェロはチルソンの成長に最も大きな影響を与えてきた。
「格闘技の解説・実況に関して言えば、マイケル(スキャヴェロ)は非常に有名人。みんな、彼の新しい本『Goodnight Irene』を読んで、彼がどれだけ長い間やってきたのか知るべきだよ!」
「2人でこれまでに、50回くらいの大会をこなしてきた。マイケルはいつも自分を助けてくれるんだ。全てを説明して、自分のベストを引き出してくれる。ものすごく経験豊富だから、ささいなことは誰も気にしない。プロデューサーかディレクターと仕事をしているみたいな感じだ」
チルソンの鋭い洞察力と熱意により、彼はONEのファンお気に入りの存在になった。それでも、学び、改善し続けることをやめるつもりはない。できる限り最高の大会にするために、そしてONEのアスリートにふさわしい敬意を払うために。
「栄光に留まろうとは決して思わない。頑張り続けないとね!」
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