【11/16大会】レスリングの天才・フォガットがONEに参戦するまで
11月16日(土)に中国・北京で開かれる「ONE:AGE OF DRAGONS」で、期待の新星リトゥ・フォガット(インド)がONEチャンピオンシップへのデビューを果たす。インドの総合格闘技界が注目する一戦で、女子アトム級でキム・ナムヒ(韓国)と対戦する。
25歳のフォガットは、日本でも公開されたインド映画「ダンガル きっと、つよくなる」のモデルとなったレスリング一家の一員として母国インドで名声を博してきた。彼女はONEに参戦し、インド人女性で初めて、メジャー大会で世界チャンピオンになりたいと思っている。
ONEデビュー戦を前に、フォガットが生い立ちやレスリングでの活躍、総合格闘技へ転向とその夢を語る。
名コーチの父
フォガットはインド北部ハリヤーナー州の出身。父はレスリングの選手でありオリンピックのコーチでもあるマハヴィル・シン・フォガットだ。
マハヴィルは、フォガットとフォガットの姉妹、姉妹同然の従姉妹らに“家業”であるレスリングを指導した。フォガットが初めてグラップリングを習ったのは8歳の時だ。
当時のインドでは、女性が格闘技をすることには偏見があった。だが姉のジータ、バビータ、従兄弟のプリヤンカの成功により、彼女らが経験した障壁は崩れていった。
「自分にとっては、レスリングをしないといけないということは、最初から明らかだった」
「正直に言うと、人々や社会からの偏見は自分の頃には収まっていた。父や姉はその矢面に立たされたが。幸い自分は、同じようなことは経験せずに済んだ」
イギリス連邦に属する国や地域が参加して4年ごとに開催される総合競技大会、コモンンウェルスゲームズの2010年大会で、ジータとバビータはそれぞれ、金メダルと銀メダルを獲得。国民的英雄になった。だからフォガットが高校1年で学校を辞めレスリングに専念することにした時、彼女が追いかけるものも、プレッシャーも大きかった。
驚異的な才能
フォガットが国際大会で姉たちのような活躍を見せるのはまだ数年先の話になるが、その時点で既に、ただ練習するだけでもプレッシャーは大きかったという。
「姉たちは活躍する場があるということを見せてくれた」
「彼女らの妹ということで期待も大きかった。でもいつも試合中はいつも、この手のプレッシャーは忘れて100%の力を出し切ろうとしてきた」
フォガットの肩には期待という重圧がのしかかっていたが、試合では優れた成績を残してみせた。国内選手権を2度も制覇。シンガポールで開かれた2016年のコモンウェルス・レスリング選手権では金メダルを獲得し、国際大会で初のメダルを手にしたのだった。
フォガットが最も誇りに思っているのは、翌年にポーランドで開かれたU-23レスリング世界選手権だ。
「この名誉ある大会で銀メダルを獲得した。決勝は4対4の互角の緊迫した戦いだったが、相手が最後のポイントを取って負けてしまった」
「勝つことができた試合だった。インドからは自分以外にもたくさんの女性が参加していてうれしかった。でも母国にメダルをもたらしたのは自分だけだった」
総合格闘技へ
レスリングに取り組む中で、フォガットは総合格闘技のファンになり、やがて総合格闘技を試してみたいと思うようになった。彼女がレスリングで培ったグラップリングのスキルは、総合格闘家として必要なスキルを身に着けるための、理想的な基盤となると思えたからだ。
「いつも何か違うことをしたいと思っていた」
「総合格闘技にはなぜインド人の世界王者がいないんだろうと、よく疑問に思っていた。だからこそ自分が、この道を追い求めようという気になった」
だが近隣には、世界クラスのトレーニングを提供するようなジムはなかった。その夢が実現したのは、シンガポールのメガジム「Evolve MMA」からトレーニングのオファーを受けた時だ。
フォガットにとっては絶好のチャンスだったが、それはまた、全てを故郷に置いて遠く離れた土地に移らなければいけないということでもあった。家族がどう反応するか不安だった。だがフォガットが思いを伝えると、家族は心から理解し応援してくれたのだった。
「家族の継続的な支援がなければ、自分はここにいなかっただろう」
「父に話す前に、実は姉たちに打ち明けた。そしたら背中を押してくれた。『総合格闘技を追求したいなら、強い意志をもって集中してやるべき』と言ってくれた」
「その後、姉たちが父に話してくれた。自分から直接ではなくてね。父も私を応援してくれて、インドに栄誉をもたらしてくれって頼まれた。『どんなスポーツでも真摯に取り組まないといけない』。これが彼らからのメッセージだった」
インド「初」へ
フォガットは今年2月にシンガポールに到着。すぐに打撃とブラジリアン柔術のスキルを学び始めた。総合格闘家になるためには、既に持つレスリングの技術に加えこれらのスキルが欠かせないからだ。
全てが新しい環境で、今までとは全く異なるトレーニングの取り組むのは容易ではない。だが父の教えを胸に、フォガットは成功を信じてひたすら努力した。
「父はいつも言っていた。何をするでも真摯にやれって」
「父のモットーはいつだって『先を見ろ、意志を持って一生懸命やれ』だった。こう自分たちに教えてくれた。父の助言に耳を傾け、それを最大限に活かそうとしてきた」
フォガットは今、8か月に及ぶ特訓の末、総合格闘技デビューを果たす準備を整えた。いよいよ11月16日にその時を迎える。
目指すところは高い。長い道のりになるかもしれないことは、フォガットにはもわかっている。
「ONE世界王者のベルトが欲しい」
「目標はそれだけ。インド人女性として初の、総合格闘技での世界チャンピオンになりたい」
北京 | 11月16日 (土) | 18時(日本時間) | 中継:ONEチャンピオンシップ公式アプリで生中継(無料)