バンタム級で存在感、上久保周哉のこれまで
上久保周哉は古典的な格闘技のルーツを持つ、日本の新世代の総合格闘家の1人だ。
コーチとしてコーナーに付くの磯野元氏は、その寡黙さから上久保に“ステルス”というリングネームをつけた。伝統的な柔道をバックグラウンドに持ち、さらにブラジリアン柔術は茶帯の腕前。
その破壊的なグラップリング(組み技)の組み合わせにより、上久保は11勝1敗1分という驚異的なプロ戦歴を築き、ONEチャンピオンシップで強豪ひしめくバンタム級上位陣に食い込んできた。
上久保が格闘技ジム「TRI.H studio」と「頂柔術」でスキルを磨き、次の試合に備えている間に、彼のこれまでの道のりを振り返る。
活発な子ども時代
上久保は横浜で、愛情深い両親の下、12歳年上の姉と2歳年下の弟とともに育った。
小さい頃は活発な子どもで、近所の友達とよく遊んでいたという。だが将来の選択肢を増やすことにつながると信じ、小学校の時から勉強にも熱心に取り組んだ。
そしてやがて、格闘技も生活の中に入ってくる。
小学校時代に1年間ほど空手をしていたことがあるが、オーストラリア・シドニー開かれた2000年夏季五輪で、井上康生選手が金メダルを獲得したことで、上久保は柔道に惹かれた。
中学校で柔道部に入り、月曜日から土曜日まで週6日練習し、日曜日には試合や練習会などもあった。さらに部活とは別に、柔道の道場に週3回通っていた。勝ち負けにこだわるというよりも、純粋に柔道を楽しんでいたという。
「練習するのが当たり前の生活で、練習する人たちに会うのもまた、生活の一部になっていた」
「投げ技も寝技も好きだった」
上久保は高校を卒業して日本大学に入学し、日本文学を学ぶと共に、強豪で知られる柔道部に入部した。
そしてまだ1年生の時に、上久保は格闘技人生の転機を迎える。
柔道の寝技のためにと、東京・新宿のジム「Honey Trap(現TRI.H studio)」で始めた柔術に、より惹かれるようになったのだ。さらに、ジムで誘われて打撃のクラスにも出るようになり、アマチュア総合格闘技の試合に出場して勝利も挙げた。
その後、多様なグラップリング技術を追求するため、大学の柔道部を退部した。
悲劇に見舞われて
上久保はまだ日本大学に在学中に、総合格闘技のプロとしてのキャリアをスタートさせた。
2014年9月、3分もかからずにサブミッション勝ちを収めるという衝撃のプロデビューを果たした。さらにその後に5勝を挙げ、DEEPフューチャーキングトーナメント2014を制覇した。
2016年に大学を卒業した後、上久保は格闘家としての夢を追いかけるために、時間を無駄にはしなかった。物件管理などの仕事に携わりながら、トレーニングを中心にした生活を送ることを選択したのだ。
だがその年の後半、トレーニング中のアクシデントで首を痛め、練習ができないという人生最大の試練を経験する。
眠ることすら辛いほどの痛みで、回復の道のりは苦しいものだった。当初は総合格闘技に戻ることができないかもしれないと思っていたが、闘志は消えなかった。痛みと戦いながら少しずつ前に進む決意をしたのだった。
「最初の3、4か月くらいはほとんど何もできなかった。動けるようになってきてから柔術の練習を再開して、スパーリングなしでドリルだけやった」
「そこから少しずつ戻していって、総合格闘技ができなくても柔術は続けようかなと思いながらやっていた」
情熱と努力により、上久保は総合格闘技と柔術の両方で復活を遂げ、これまでにないほどの活躍を見せた。
2017年10月の「Tribe Tokyo Fight Challenge」でユナニマス判定で勝利を挙げ、「全日本ブラジリアン柔術選手権2018」ではアダルト紫帯フェザー級で準優勝。
上久保はケガを乗り越え、これまでより強くなって戻ってきたのだった。
メジャー大会に参戦
上久保はONEチャンピオンシップから、2018年7月に中国・広州で開かれた「ONE:BATTLE FOR THE HEAVENS」で、デビュー戦のオファーを受ける。
試合まであまり時間がない段階だったが、上久保は迷わずオファーを受けた。
「意外と急だなと思った。準備するのに4週間もないくらいだった。だが他に試合の予定がなかったからタイミングは良かった」
「(デビュー戦では)久々に試合でフィニッシュできた。和田竜光選手が同じイベントに出ていて、自分の勝利で和田選手に繋げたいと思ったのを覚えている」
上久保はデビュー戦、猛烈なパンチで会場に詰めかけたファンを沸かせると、世界空手連盟(WKF)インドネシア王者のスノトを第2ラウンドTKOで下した。
さらにその後、マレーシアの旋風モハメド・アイマン、ONE世界タイトルに挑戦したことのあるキム・デファン(韓国)、さらにノーギ柔術世界チャンピオンに2度輝いたブルーノ・プッチ(ブラジル)を破った。
上久保は継続的なトレーニングと学びによって、アスリートとしての進化を遂げることができたと感じている。それを見せつけたのが、2019年11月の前回のプッチとの試合での勝利だ。
「直近のブルーノ・プッチ戦では、練習でやってきたことなど、いろいろな引き出しが出せた。試合中に自分で自分の反省点が分かっていたし、冷静に試合ができた」
「しかもケガなく終われたからうれしかった」
前を見据えて
上久保の総合格闘技のスタイルは柔道がベースだが、独自の味わいを持っている。
危険なパンチ、圧倒的な攻撃、計り知れないプレッシャー、そして試合を決める戦術は、世界のエリートであるONEのバンタム級選手にとっても脅威だ。上久保は試合の度にいつも、トレードマークのこのスタイルで臨んで、相手を撃破するつもりでいる。
「試合があってもなくても、自分の技術や引き出しを増やすように頑張ろうと思っている」
「ONEはみんな、ムエタイや打撃の選手が好きだと思う。自分は打撃もできるが、丁寧な柔術とグラップリングを見せられる選手だと思っている」
「フィニッシュは狙って出てくるものではなくて、相手が諦めて出すものだと思っている。だから自分が圧倒的にコントロールして、相手が『上久保とは試合したくないよ』と思うような試合を常にしたいと思っている」
上久保は現在、世界最大の格闘技団体ONEでの4勝を含む7連勝中と勢いに乗る。ONEバンタム級世界タイトル戦に近づくために、どんな相手にも立ち向かっていくつもりだ。
「(対戦したい選手は)意外とあまりいない。だが、『この人とやる』と言われた時に自分の気持ちが盛り上がるような選手とやりたい。キムを倒したユサップ・サーデュラエフ(ロシア)のような選手かもしれない」
「誰が次に(世界王者の)ビビアーノ・フェルナンデス(ブラジル)に挑戦するのかわからないが、彼に挑戦するくらいの選手とはいずれ、試合をすることになるのではないかと思う」
上久保がこの圧倒的なパフォーマンスを続けることができれば、バンタム級世界王者へ挑戦する日も、そう遠くないだろう。
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