青木真也のONE入門:水抜き禁止独自の階級制
2012年からONEチャンピオンシップで活躍する青木真也は、ONE最古参の日本人アスリートの1人。また、各種媒体で精力的に執筆活動を行っており日本格闘技界きっての⽂筆家としても知られている。
新企画の不定期連載コラム「青木真也のONE入門」では、青木が熱心な格闘技ファンにはもちろん、観戦初心者にも分かりやすくONEの魅力を選手目線で解説する。
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あけましておめでとうございます。
2020年1月から「選手から見たONEチャンピオンシップ」の視点でONE独自の世界観を書かせてもらいます。至らないところがあるかと思いますが、お付き合いよろしくお願いします。
今回は階級制と減量です。
多くの挌闘競技が体重制を敷いています。大相撲のように階級制を用いない競技もありますが、ほぼ全ての挌闘競技で体重制を敷いています。ONEの場合は男女合わせてアトム級からヘビー級まで10階級になっていますが、ボクシングの場合は17階級に分かれていて階級の細分化が進んでいます。
ボクシングの階級の細分化については、安全性なのか、競技制なのか、歴史からくるものなのかは様々な意見や考えがあると思うのですが、軽量級の場合は階級の幅が少ない(※注1)こともあって複数の階級で王者につくケースがあります。
ONEの場合は、各階級間で最低でも4kgは開くので(※注2)、その中で2階級を獲得するマーティン・ニューイェン選手(※注3)やアウンラ・ンサン選手(※注4)の凄さはご理解いただけると思います。総合格闘技も階級が細分化されていくのかどうかについても意見が分かれるところで、それはまた別の記事が一つ立ってしまうほどの話題なので今回は蓋をしておきます。
体重制を用いる理由は格闘競技において体重が重いことが優位に働くからです。簡単に言ってしまえば重い方が強いのです。相撲には「1つの技を覚えるよりも10kg増やせ」なんて言葉もあるくらいに体重がある方が有利に働きます。階級細分化が進んでいるボクシングの階級細分化の理由の一つに階級の違いでパンチの強さが違う理由があります。最も大事な安全性も体重を揃えることで担保されるので打撃のある競技の場合は特に体重を大切にしています。
少しでも試合を有利に運びたいと考えるのが選手心理なので選手は減量をします。
ここで少しでも試合を優位にしたいと考えるがあまり、無理な減量をしてしまうケースがあります。これは「水抜き」といわれる脱水をすることで、体重を一時的に落とす方法です。選手によっては10kg以上の水抜きをする選手も耳にしたことがあるくらいで、体重チェックの時から試合までに10kg以上増加するなんて選手も存在します。当然ですが身体にいいわけもなく、体重を守れなかったり、体調を崩してしまうケースが出てきました。本来、安全と公平性を担保する意味合いで出来た体重制が選手を危険に追い込む本末転倒ともいえる状況がおきていたのです。
そこでONEの階級制度は体重のチェックだけでなく、尿比重のチェックを導入しています。
ここでのポイントは尿比重を導入することで脱水ができなくなります。脱水をすると尿が濃くなって尿比重を規定の範囲で抑えることができなくなるので、脱水の減量が理論上できなくなります。この計量システムが導入されたときは新しいシステムに戸惑ったのですが、このシステムに慣れていくと身体が楽なことを実感できます。何よりも安全性が確保できているので、選手も安心して試合ができるだろうし、選手から退く時もダメージを最小限で降りることができるのではないでしょうか。
試合に出場するには体重チェックと尿比重チェックをクリアすることが必要です。
選手としては体重チェックはチェック前にわかるのですが、尿比重チェックは自分の今から出す尿がどのくらいの尿比重なのか体感ではわからないので、ドキドキするのですが、水分を十分にとって健康体であれば問題なく通過することができます。
選手の健康面を第一に考えるONE独自の計量システムです。
観る側にとって戸惑ってしまう点の一つに、一般的な階級よりも体重が1個上がっての表記になっています。これは独自の計量システムからくることなのですが、僕が試合をするライト級では他のルールでは体重上限が約70kgになることもありますが(※注5)、ONEでは尿比重があってのことなので77.1kgがライト級になります。頭に入れておくと混乱せずに観ることができるのではないでしょうか。
ONE独自の計量システムをご理解いただけたら、ONE観戦もさらにお楽しみいただけるのではないでしょうか。
<ONE編集部注>
※注1:例えば最も軽いミニマム級が47.62kg以下、次に重いライトフライ級48.97kg以下となっている。
※注2:例えばONEだとストロー級が56.7kg以下、次に重いフライ級が61.2kg以下。
※注3:2017年11月から2018年9月までフェザー級とライト級ONE世界王者。ONE初の2階級制覇。2020年1月現在はフェザー級タイトルのみ保持。
※注4:2020年1月現在ミドル級とライトヘビー級ONE世界王者。
※注5:例えば「MMAユニファイドルール」では、ライト級は70.3 kgが上限。