リッチ・フランクリンの視点:ウォリアーシリーズの親切の輪
「ONEウォリアーシリーズ(OWS、ONEの人材育成、発掘のための大会)」では、アスリートの育成に継続的に携わっていて、与えることの精神が繰り返しテーマになってきた。
選手たちのコミュニティに深く関わり、異なる文化や習慣に浸る中で、私は頻繁に、貴重な経験や学びを得ている。
このことにより、与えられたものに同様に報いることが、OWSにいる私たち全員にとって重要なことになっている。
OWSの5シーズン目となる2020年に向けて、私たちにはかなり一貫した慣例がある。OWSをただ経験として終わらせるのではなく、OWSをお返しとして何かに貢献する手段にもしたいというものだ。
なぜなら他のどんなスポーツよりも、総合格闘技では選手の人間性がむき出しになるからだ。
受け入れてもらえないことの苦しみ、経済的な困窮、そして悲劇の克服などの困難な状況の中で最も輝くものは、より良い人間になろうと努力し、地域社会に還元しようとする過程で生まれる、思いやり、忍耐、そして誇りという価値観だ。
OWSの有望選手、アラン・アルビンドを例に取ろう。彼はフィリピン・セブでトウモロコシとコメを生産する農家で育った。
フィリピンの武術「ヤウヤン(Yaw-yan)」を習っていたアランには光るものがあった。さらに素晴らしいことに、彼は無骨な闘志を体現しているような人物なのだ。その闘志はブレークスルーを果たすのに不可欠なだけでなく、その後にやってくるであろうプレッシャーや困難に対処するためにも欠かせないものだ。
大都会から離れた郊外で質素な生活を送っていると(才能があっても)見出してもらうのは簡単なことではない。一緒にトレーニングする人を見つけることすら、難しいかもしれない。アランはそんな状況で育ち、それにもかかわらず、普通ならなり得ない以上に立派なアスリートになったのだ。
アランの潜在性が私たちOWSの下で開花し、彼が飛躍を遂げていくことが私たちの願いだ。それは私たちの選手一人ひとりが持つ願い、そして自分たちの中から成功する人が出てほしいと願う、彼らの地域社会が持つ願いと全く同じことだ。
さて私たちは、その日の活動の一環としてアランを、(セブ島の観光スポットとして知られる)カワサン滝(Kawasan Falls)にキャニオニングに連れ出した。森を抜け、最後に美しい滝をいくつも登っていくという、素晴らしいトレッキングができる場所だ。
私たちにとっては自然に触れ、田舎の人たちが受け継いだような牧歌的な生活に触れる、良い機会だった。文明社会から離れて、質素であることの美しさに、文字通り頭から飛び込むような経験だった。
高さ15メートルほどの崖から澄んだ水に何度か飛び込んだ後、OWSのディレクターのジョナサン・フォンは高所恐怖症をある程度、克服したらしい。
私たちが知らなかったことだが、アランやジムの子どもたちは今まで、映画館に行ったことが一度もなかった。だから私たちは子どもたちを集めて、映画館にスーパーヒーロー映画「キャプテン・マーベル」を見に連れて行って驚かせようと思った。面白半分で、クルーが私に乗り合いタクシーを運転させようとした。
そこで私は子どもたちを大勢引き連れて、ジョナサンを助手席に座らせて、フィリピンの混んだ道を映画館まで運転して行った。子どもたちみんなが大興奮しているのを見るのは、とてもうれしかった。それにその過程で、新しい友達も大勢できた。
私たちはまた、セブ出身のもう一人の選手で、「OWS 3」のベテランでもあるマーク・クイゾンと協力し、犬の保護活動を手掛けるセブ島の救助団体を手伝った。
マーク自身も犬を飼っていて、大の動物好きだ。私たちはその日を、野良犬と共に作業して過ごした。路上で拾われてきたここの犬の多くは非常に攻撃的で、虐待されていたり、逃げ出してきたりという経験がある。
シェルターは犬たちを人間社会に馴れさせるのに、欠かせない役割を果たしている。ここで提供している特別なしつけの訓練は、犬たちが少しずつ、人間や社会との関係に馴染むのに必要なものなのだ。
私には実際の訓練について何か資格があるわけではないが、犬たちとどう接するかについて、トレーナーからいくつかヒントを得た。これは素晴らしいおまけだった。
さらに、25キロのドッグフードの袋を2つ肩に担いでシェルターに運ぶことで偶然にも、その日の自分のワークアウトも済ませることができた。山へのトレッキングがあると分かっていたら、こんなに汗をかいたり肩を痛めたりせずに過ごしただろうに。
ここの犬たちが十分なエサを与えられ、きちんと世話をされているのを知ることができたので、十分に報われたのだが。
時々、善い行いから温かい物語が生まれることがある。これはOWSでも起こったことだ。
OWSのシーズン4で、インドネシアの格闘技ジム「Bali MMA」でのトライアウトでのことだ。そこで私たちは、インドネシアの有望選手トーリックに出会った。彼はもともと将来有望なサッカー選手で、総合格闘技に転向したのだった。
その数年前、トーリックは脳性麻痺で妹を失うという悲劇に見舞われていた。今も妹の思い出を胸に決意を高めている彼を見て、妹への追悼の気持ちを込め、身体障がい児の学校で子どもたちとのヨガのクラスを開くことを思いついた。
地元の学校からヨガのインストラクターを雇い、そのクラスを指導してもらった。そしてお店に行って、子どもたちのために新しいヨガマットなど購入した。興味津々な子、夢中になる子、そして本領を発揮している子—そんな子どもたちに交じっているというのは、とてもユニークな環境だった。
私たちに懐いてきた子どもたちと交流するのは楽しい時間だった。そしてヨガのストレッチは間違いなく、全てを緩やかに、そして軽く保つのに役立った。
インストラクターはとても親切な人で、後に、子どもたちとの経験のおかげでポジティブな感情でいっぱいになったと教えてくれた。そして私たちとがお願いした分以外に、定期的に子どもたちにヨガを教え続けることにしたそうだ。
人から受けた親切を、また別の人に新しい親切でつないでいくという、シンプルな行動により、結果的に全てが、もともと考えていたよりうまくいったのだった。
4年間に渡る撮影で培った他の多くの思い出と同様、アジアでの私の体験は、世界に一つしかなく、一生に一度という経験の集大成だったということが分かってきた。
2020年という新しい年が始まった今、私はこれまでたくさんのポジティブな経験に携われたことに、感謝の気持ちを感じている。
先ほど「願い」について話したが、それはただ願うというだけのことではない。意識的に、決意をもって行動し、プラスの力を自ら引き寄せることなのだ。
それらを念頭に置いて私は、私たちのチームとアスリートたちが、新しい年により大きなものをもたらしてくれると期待している。
我々のコンテンツがとうとう、提携する放送パートナーによって放映されることになる。これは将来に向けた大きな前進であり、我々の成果を披露できることを、とても楽しみにしている。
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リッチ・フランクリンは、ONEチャンピオンシップの副社長及びONEウォリアーシリーズのCEO。総合格闘技元世界チャンピオンでもある。記事に書かれたすべての意見は彼個人のものである。