エブ・ティンが阿部大治に熱狂の一本勝ち
7月12日に行なわれた「ONE: MASTERS OF DESTINY」で最もスリリングだった試合を挙げるならば、エブ・ティンと阿部大治の試合をおいて、他にはないだろう。
本大会は、ペトロシアンの再戦やアンジェラ・リーの復帰戦など重要なカードも多かったが、エキサイティングな試合という意味合いでは、この試合に勝てないと思われる。試合はティンがリアネイキッドチョークで阿部を下したが、双方がダウンを奪われるなど、見応え十分なシーソーゲームだった。
ティンの地元マレーシアで繰り広げられた大熱戦。一時は窮地に追い詰められたティンを、地元ファンは固唾を呑んで見守った。
「私が阿部に対して距離を詰めて踏み込んだ時に、パンチが何発か当てられた。それでバランスを崩して倒れたんだ。一度はピンチがあった方が、ファンは喜んでくれるんだね。勉強したよ(笑)」
「作戦では、とにかく阿部の得意な展開に持ち込まないことが大切だった。でも、彼は試合をコントロールできていたし、ダウンを奪われたときに動きを止めるのは難しいと悟った。ならば、レフリーに試合を止めてもらうまで」
想像以上だった阿部のスピードがティンを打撃に付き合わせる結果となり、試合がエキサイティングなものに変化した。
試合の途中で、ティンは守りに入るか攻めに転じるか悩んだという。序盤は阿部が攻勢を仕掛け、ダウンを奪ったあとは勝利するかと思われた。しかし、ティンが右を当てたことで流れが変わった。
「改めて言うけど、あれはダウンじゃないんだ。バランスを崩して倒れた。でも、それをダウンだと阿部が思ってくれたおかげで、攻め急がせることができたのかもしれない」
「もしかしたら、私はもっと早く決着をつけることができたかも。でも、盛り上がっている場内をさらに盛り上げたいと思って夢中だった」
大歓声に乗せられエキサイトしたティンだったが、インターバルの間にセコンドのアドバイスを聞き、2Rは一転して落ち着きを取り戻した。
「セコンドからは、とにかく冷静に。そして、打撃を貰わずに、しっかりと組むという当たり前のものだった。でも、当時の私にはそういう声が必要だった。それで、自分の得意な柔術に徹した」
冷静さを取り戻したティンは強かった。阿部からダウンを奪ったものの深追いはせず、確実にリアネイキッドチョークで仕留めた。
「地元ファンの前で勝ててホッとしている」
勝利が確定すると、興奮したティンはコーナーに登って喜びを爆発させた。地元では負け無しのティン。しかし、久しぶりの試合となった今回は、その喜びも格別だったはずだ。
「地元で全勝は価値がある。お金以上の価値があるんだ」
青木真也などに敗れ、最近では連敗していたティン。しかし、この勝利でまたONEライト級のなかで一歩前進したと言えるだろう。
「誰もが現王者のクリスチャン・リーを狙っている。ぜひ、一戦交えたいね」